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行政書士試験独学①記述対策

 昨年、私は行政書士試験に独学で合格し、開業したてのギョーシ1年生である。法学部出身でもなく、宅建取引士に合格するまで法律の〝ほ〟の字もかじったこともなかったくせに、法律の深さに魅せられ行政書士の資格まで取って開業するまでに至るのである。これから書くことは独学で行政書士試験に挑む受験生にとって、有益な判断・材料になれば幸いで、独学の合格体験記ではなく失敗体験記。よく言われるように〝失敗は成功の母〟を地で行く経験談である。

 行政書士試験に合格するまで4年かかった。独学で挑戦したのには理由があり、時間はたっぷりあるが、お金がない。成績は1年目132点、2年目170点、3年目145点、4年目184点(合格)。なぜ4年もかかったかというと、ズバリ、行政書士試験をなめていたから・・・。 2年目は合格まであと10点足りず。本腰を入れるため、某予備校に半年間、週末ごとに片道2時間かけて通学。不合格の理由は明確だった。基礎が確立できていなかった。択一でも記述でも、少し条文や判例をねじられただけで対応できず、まるで法律の神様から〝まだまだ勉強不足だよ〟と言われているように感じられた。

 3年目に取り組んだのは、基礎の繰り返し・反復。例えば、民法の重要条文は限られる。民法は人が生活する中で切り離せない。だから個人の権利・義務にあまり関係のない条文は重要ではない。この条文の重要か重要でないかの判断基準は後述する。日本の基本法は大陸法と判例法を混ぜたような構造をしている。条文ではしっかりと法の本質を守らせつつ、判例になると解釈を変更するといった具合である。

 私は余計なことをせず、憲法・行政各法(地方自治法を除く)・民法の3法の条文を繰り返し繰り返し読み込んだ。声に出し、なぜこの条文はこんな表現なのか?なぜ、但書きが盛り込まれているのか?なぜ違憲判決が出たのか?なぜ判例変更が行われたのか?十分吟味した上で、基本書に立ち返る作業を繰り返した。

   次に過去問。つまり、六法(条文素読)と基本書と過去問の反復・往復のみ。この方法は会社法(商法含む)ではムリなので過去問のみ取り組んだ。理由は簡単。会社法は条文が多く、ややこしい条文だらけで2年勉強しても本番で3問以上取れたことはなく、3・4年目は切り捨てた。これ以上の蓄積は必要なしと結論。合格した年は2問正解という結果に。そんなものです(しかし、実務は違うので勉強は不可欠)。

 では、3年目で145点しか取れなかったかというと、気の緩みからか受験前にさぼり癖がついてしまい、択一が不正解の連続。一般知識が足切り点ギリギリ。過去2年、一般知識は何もしなくても7割以上は取れていた。慢心もあったのか、大した対策もせず受験して見るも無残なものに。記述は民法1問は満点。行政法は問題の趣旨を読み取れずゼロ点。残りの民法は全く的外れな作文で撃沈した。

 さて、背水の陣で臨んだ4年目。深夜アルバイトをしながらの勉強を続け、休憩時間も基本書とにらめっこ。年下の店長からは「もう、歳だし無理だって。(試験挑戦を)やめたら・・・」と言われる始末。それでもめげずに、黙々と3年目の勉強法を信じてひたすら六法(条文素読・確認・判例熟読)⇔基本書⇔過去問のスパイラルを繰り返した。

 六法は判例六法(有斐閣)を使用(なぜ判例六法かは後述)。重要条文は赤蛍光、但書きと従来の判例変更は緑蛍光、重要判例は橙蛍光、橙蛍光以外で重要な判例は黄蛍光に色分けしていた。基本書も基本的には同じ。ただ、参照(cf、P〇〇)基本書と過去問に両方記載。加えて六法・基本書・過去問には条文・判例を問わず出題年・番号を記して、重要度を分かりやすした(同じ条文に三つあれば複数年出題されている証拠←最重要条文だ)。例・(H30-8-1)、(H28-43ー多肢)、(H29-46ー記述)。

 情報の統一化の確立。自分なりの方程式が完成した。この勉強法が画期的に成功することになる。最初の項目は記述対策。あくまでも本番を意識して、なおかつ実践主義を貫く。なぜ記述対策が1番目の項目かというと、高得点を取るのが難しいからである。私は苦手というほどではなかったが、出題意図がうまく理解できず時間が足りなくなる→条文・判例を思い出せない→あわてる・あせる→法律要件がまとまらずに、問題の趣旨とはかけ離れた作文をしてしまう悪循環を繰り返していた。うまく問題が私の思考範囲を直撃すれば高得点。しかし、ハズレが3問なら旧日本軍と同じバンザイ突撃である。

 出題は行政法1問、民法2問。各問40字程度で解答を導き出す。これがなかなかムズイ。受験経験者なら理解できるが、初受験者にはどう説明すればよいか悩む。基本書の概要には①問題文に示された事例を正確に把握し、②どのような条文・判例が問題になっているかを判断し、③適切に表現する・・・。経験上、60点満点中30点取れれば👌。考えれば考えるほど、本番では時間が取れない。なぜなら問題が後半に用意されている。当然、残された時間は少ない。

 重要なポイントは何かと自分なりに考えた。重要なポイントは①だ。①さえ把握すれば、なんとかなる。では、具体的にどうするのか?逆転・逆算の発想をしようとひらめいた。受験者が記述問題を答えるのではなく、自分で記述問題を作成すればよいのだ!!自ら記述問題を作成して、答えまで作ってしまえば・・・。実際やってみると、これはかなり骨が折れる。

 理由①問題は簡単に作れない。なぜなら、法的な思考能力の欠如・条文への理解度の低さ・判例の読込不足等々。そもそも問題作成能力がない。②行政法と民法では、出題範囲が違いすぎて問題作成/答え作成の切り替えができない。③40字程度で法律要件を踏まえた上で重要な法律用語を交えて書く作業を日頃から行っていない(脳と手が連動しない。歳のせい?)。

 だから、最初は過去問を書き写す作業と答えを書き写す作業を同時に行う。次回は制限時間(10分)を設けて一応挑戦する。間違ってもいい。間違えたら、正答を見て自分の解答と何が違うのかを比較する。条文?判例?用語の言い回し?法の階層・順序だて?私は行政法・民法過去問10年間、問題・解答すべてを書き写した。今でも問題は覚えているが、答えは忘れた。

 ここからは問題作成。基本書から40字記述問題になりそうな項目を絞り出す。ここからがポイント。過去問は項目から外す。できれば10年間以上遡って調べるのもあり(ネットで検索)。出題が2回目というのは、これまでない。ただ、ズバリ出題されず部分的に出題されるケースもあるので、過去問復習は大切(択一対策にもなる)。一部条文が被ることもあり、そこからヒントを得ることも。項目ごとに解答を探す。言うまでもないが、答えは条文・判例・その他を把握して、基本書⇔六法⇔過去問で統一する(た~まに解釈や文言に違いが出るケースもある。この場合、基本書→六法→専門書でたどる)。

 例えば、合格した年の民法記述の1問は「共有の管理等」だった。私は満点。理由は簡単でヤマがあたった。共有は基本書&予備校的な項目重要度ではBランク(出題率50%)。しかし、私は勝手にAランク(出題率80%以上)に変更していた。変更した理由にも根拠があって、民法2問中1問は確実に債権。総論か各論かは分からない。ということは残りは総則か、物権になる???前年は総則が出題されており、物権の可能性は高まる。家族・相続法は基本的に無視していた(理由・問題・解答作成が簡単で出題項目が限られている)。

 2問とも債権なら問題なし。債権は条文が明確なので(こうなったら・・・、こうなる)、問題作成を数多くこなせば乗り越えられると判断した。物権出題をどう絞るか?過去問10年間の択一・記述を調べると、担保物権に偏っている。なぜなら担保物権は所有権に基づく権利関係の変動・対抗要件が主な論点。基本書を見返すと、重要度B→A変更が多いことに気づく(当時はそんな意識はない)。

 共有はその項目の一つだった。共有にはひっかけが存在した。「共有物の管理等」の要件の覚え方を教えよう(オリジナル!!どの基本書にも載っていない)。共有物の管理等は「大政」と語呂合わせ(歴史好きなので)。「」は保存行為(単独)、「」は管理行為(持分価格の過半数)、「」は変更行為(共有者全員の同意)。管理行為は共有者の過半数ではなく、持分価格の過半数。これがひっかけ。本番の問題も、共有者は3人だった。ここだけを覚えておき、問題を自分で作成していた。

 問題作成は結構時間がかかるので、問題集を2,3冊購入してリメイク、オリジナル、いい論点をついていると思ったらそのまま流用したり、問題作成の出元はさまざま。行政法・民法合わせて500問くらい(同じ問題を複数)作ったかなぁ。写真はその一部。参考までに紹介してます。

 約束事は二つ。①必ず解答用紙(予想問題集解答用紙をコピー)に問題を書き込む。②1枚は3問。だからどんなに時間がかかっても、3問作成・解答のペースを崩さない。しかし、問題作成してからすぐに解答しない。答えを覚えている可能性あり。本番を意識して解答するのだから、答えをある程度覚えている状態で解いても意味はない。オリジナル問題なら「ああでもない。こうでもない」と模索しながら問題を作成(もちろん、基本書・過去問・判例から引きずり出す)して、3問作成したら行政法から解く。順番は行政法→民法①→民法②を変更しない。

 この作業を1日数枚ずつ繰り返した(2月末から本番直前まで)。本番2カ月前くらいになると、「あれぇ、前もこんな問題作成しなかったけぇ??」とファイルをめくると、似たような問題を作っていた。な~んてことがたびたび起きる。そこで問題作成の出元は条文なのか?判例なのか?過去問なのか?流用なのか?オリジナルなのか?を確かめてからアレンジする。この時期になると、ある程度重要な条文は何か?判例は何か?論点は何か?が分かったような気になる。

  問題を作成して解く。若干、正解が違っていても論旨が合えば甘い点数をつけていた。気分的なもの。厳しくすると、自分が追い込まれている感が強くなるので。ただ用語の間違いは厳しくチェック。権限→権原、推定→みなす。解答だが、オリジナル問題は自分で作るしかない。それが正答かは判断できない。加えて部分点も分からない。

 理由は本番では採点者がいて、自分の書いた作文が部分点10点なのか?8点なのか?見当もつかない。ただヒントはある。予想問題集の解答に部分点の基準みたいな点数の付け方が記載してあるので、ある程度参考にはなる。35字から40字程度に収まらないといけない条件があり、特別で重要な条文でも判例であっても、その内容・論旨が40字程度に収まらないと記述問題にはならないれが逆転・逆算の発想という原点である。

 合格した年の記述では、60点中36点だった。民法のもう1問は第三者のための契約。債権出題予想は見事に当たったが・・・。出題自体は完全ノーマーク。結局、部分点のみ。行政法に至ってはひどかった。おそらく、ゼロ点。自己採点では30点だったが、部分点6点があったと推定。択一の出来は散々(ヒドイ点数・他にも僥倖が・・・後述)。もし、この6点がなかったら、不合格だった。だから、受験生の皆さんもあきらめずに部分点を取りにいくのもアリ。しかし、それは最終手段でこれまで縷々述べてきたことを実践すれば必ず自信がつく。本番で慌てることはない。なぜなら、「私は500問もやりきった」という自分の中の核(コア)が揺るがないからである。次回は、「一般知識と時間配分etc」です。お楽しみに。

                         元ブンヤの行政書士