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行政書士試験独学④憲法

 行政書士試験独学4回目「憲法」。憲法は言うまでもなく法体系のトップである。法治国家において憲法以上の法律は存在しない。行政書士試験の独学の勉強分野として一番最初に触れる。試験問題全体に占める割合は択一5問(20点)、多肢選択(8点)で約11%。この割合をどうとらえるかがカギで、他分野を今後学習していくうえでのモチベーションとなる。

 理由は大きく分けて二つ。①憲法は勉強に入りやすいが、勉強すればするほど懐が深い。勉強の基礎として始めるので、受験生も肩に力を入れて意気込む。条文か?判例か?ほぼ二択。な~んだ、簡単じゃん。トンでもない。勉強すればするほど、この意味が理解できるはず。理解できない受験生は勉強不足。②憲法は全ての法体系のトップであることを再認識する。条文は103条しかない。戦後、一度も改憲されず守られてきた(守ってきた?)理由が、そこにはある。一つひとつの条文には、戦後、日本の民主主義にかけた草案者らの息吹が宿っており、判例の積み重ねも違憲判決も司法が独立していることを証明している。

 この二つの理由から、深く立ち入っては他分野の勉強時間に影響する。かといって、疎かにはできない。基本書は3回通読。1回目は声に出して読むか、目で読む(黙読)。2回目は自分が重要と思う箇所や条文に鉛筆で下線を引く。3回目はその鉛筆下線の中で最重要と思う箇所を赤ボールペンで下線を引く。

 4回目以降は蛍光ペンを使用。解説・条文・判例を色分けする。*蛍光ペンの色は次の通り。ピンク条文or解説条文但書きor違憲判決or逆説要注意判例or解説特に重要な解説or指摘問題点条文タイトル天皇の地位・象徴】or判例名等に固定する。蛍光ペンの下線引きや書き足しは後半から行う。3回目までに書き足し等をすると、余計な知識が頭の中を覆う。

 3回通読して自分なりにどんな感想を持つだろうか?「簡単じゃん!!」「言われた通り、奥が深いかも?」と様々な感想を持つと思う。憲法に関して、少しお笑いネタをどうぞ。初学者のみなさん。公務員の政治活動に関する超有名な判例で「猿払事件」を知っているのは当然。初めてこの判例に目で触れたとき、「さるはらい事件」と読んでいたのでは?私もその一人なので。( ´艸`) 基本書にはルビがふってあり、「なんだ、さるふつって読むのかぁ」では済まされない。では、猿払はどの都道府県にある市町村か?正確に答えられる受験生は偉い。L書では、そこまでは記載されていないからである。

 では、どうやって調べるか?ネット検索?専門書?国語辞典?判例集?答え→正解はない。ズルいじゃん。いいえ、ネット検索を除いて、徐々にたどっていく過程を踏む。第一候補は専門書。私はズバリ「憲法第五版」(芦部信喜著、高橋和之補訂・岩波書店/通称・芦部本)を推す。同書では、前述した「猿払事件」にはルビがふられ、北海道の猿払村の郵便局員が・・・と解説が続く。

 〝ムム〟なぜ、北海道の猿払村の郵便局員が国家公務員法違反で起訴されたのか?片田舎の郵便局員が、政治活動をしたとはいえ行政の中立性?国民の信頼の確保?等々疑問がわく。ここで思考を止める。1審判決は昭和43年、最高裁判決は昭和49年。提訴年はもっと古いと考える。そして、これ以上の背景を追わず、他の判例(公務員の人権)との比較を試みる。一つひとつの判例を細かく追いかけると、キリがなくなる。必要以上にに追いかけるか?追いかけないかの線引きは自分自身で判断これが憲法の人権問題の勉強法のキモであり、重要なポイントである

 今回の事例は判例名の呼び方だったが、憲法判例は意外に違憲判決が少ない。違憲判決は従来の判例の変更なのだから、それなりの根拠が必要になる。合憲判決の多くは三段論法である。「現状は☐☐である。しかしながら、▲▲と判断する。だから、〇〇である」。しいて言うなら、行政寄り(国・市町村寄り)判決が多く、国民が敗訴するケースが目立つ。斜に構えて論ずるなら、裁判所も行政機関。だから、裁判官も保身する。判例をそんな複眼的な思考でとらえるのも、理解が進む要因の一つだ。

 横道にそれたが、憲法を勉強するうえで芦部本の読破は避けて通れない。芦部本を読破せずして、憲法の勉強ではない。では、芦部本以外の専門書は?と聞かれると困るが、辰巳法律研究所の判例まんが本を勧める。憲法判例が含まれるシリーズがあるので、購入してみては(ブックオフで格安購入)。独特の視点で判例の見方がより深まり、脳が柔軟になる。憲法とは関係ないが、私は裁判所・弁護士関連の本をよく読んでいた。例えば、「孤高の王国 裁判所」「憲法を奪回する人々」「私が弁護士になるまで」etc。法に関する知識が受験勉強を邪魔することない。

 個別にみていく。憲法は大別して二つ。①人権②統治。択一では①が3問、②が2問(又はその逆)出題される。特別難解な問題は出ない。しかし、た~まに意地の悪い問題が出る。それは何かというと、国会法・内閣法・公務員法(国家・地方)・国家行政組織法等絡みの出題。加えて時事問題が被さる。前回(or前々回)指摘した六法の話で、判例六法はほぼ大半の公法・私法を網羅しており、条文を求めて横断的な出題にも対応できる。また最近の傾向では、直近の判例が出やすい。

 本題に入る。①の人権。ズバリ、条文と判例、過去問の横断的な演習・復習のみ。基本書⇔過去問⇔判例六法、最後に専門書補完的に判例集。これ以外はいらない。他の専門書を試みたが、混乱するだけ。条文は素読を続ける。過去問は10回以上繰り返す。基本書はその都度見返す。解説等が複数頁に重なっていれば、cf・P〇と記載。用語の記載・説明・重要判例を自分で書き足す。混同しやすい(例・報道の自由と取材の自由の要件の違い)ものは区別をはっきりさせる。過去問だが、できて当たり前。比較対象の条文はあるか?類似・反対判例はあるか?あれば条文・論旨をそらんじて調べて確認する。一肢ごとに、この作業を繰り返す。

 過去問の出題履歴があれば記す。例・出(H29-3-3)、(H30-41ー多肢)。←L書は(12-7)記載のみで、要は(2012-7)で出題。出題年/問までは記載しても、肢までは記載していない。ここが不親切。だから平均的と断ずる。判例六法なら(判例六法P〇番号)。複数判旨があれば書き足す(判例六法P〇番号⑴、⑹、⒆)。この作業をひたすら繰り返す。辛口批評をするなら、判例六法は字が小さくて見づらく40代・50代には辛い作業になる。

 ②の統治。人権より中身がないので条文読込と過去問演習の割合を増やす。条文は1条から7条まで、41条から103条まで。判例は少しで論点も分かりやすい。注意点は数字。これは覚えるしかない。比較対象を正確に理解した上で、前述した関連法令の読込を行う。

 例えば憲法50条議員の不逮捕特権】だが、例外が一つ(法律の定める場合を除く)ある。不逮捕特権の例外のもう一つ国会法33条にある(現行犯逮捕を除く)。具体的には、私が使用していた判例六法の憲法50条を見返すと、「不逮捕特権の例外をあとひとつ述べよ」と書き込んである。矢印がしてあり、その先に国会法33条の内容が記されていた。反対に国会法33条には、憲法50条参照のみ。この書込み作業と条文確認が横断的な知識の連続を生み、問題を解くカギになる。不逮捕特権の例外についての出題なら、【憲法50条】と【国会法33条】の二つだった・・・。→後は思い出すだけ(実際に合格した年に出題された!!)。

 最後に判例百選について述べる。私も二冊とも購入したが、あまりにも細かくて混乱する。大学法学部の学生は必須と思われる。しかし、行政書士試験対策としては不必要。欲が出た。確認の確認をしたいなら・・・必要程度である。実際に読み込んだ判例は、10もなかった。経験上、判例六法・専門書・判例集で十分である。

 さて、憲法択一は5問全問正解を目指す。イヤ、狙うは全問正解のみ。理由は自己採点するとき、正答が続くと〝合格できる〟気持ちが昂る。行政法や民法のように頭をこねくり回すほどの問題は出ない。記述もない。勉強すれば、ほぼ二択か一択だ。ちなみに、私は3問正解だった。他人には〝全問正解を目指せ〟と言いながら、恥ずかしい限り。間違えた1問は問題文を取り違え、もう1問は判例自体を勘違いしていて不正解を導き出した。多肢選択は何の対策もない。真面目に基本書⇔過去問⇔判例六法を繰り返し、芦部本で確認して情報の統一化を図れば精度が上がる。

 次回は行政法の行政法総論。最初に言っておくが、総論は行政法の入り口で、間口が広くて底なし沼のような皮膚感が総論全体を覆う。初学者が行政法のぬかるみに足を取られないようにエスコートできたらと思う。          元ブンヤの行政書士