さぁ、役に立つ不動産屋のブログも4回目を迎えました。これまでの3回のブログで不動産屋(宅建業者)とは、どのような職種であり、契約はどのようなものであり、どのような法令を遵守してその業を営んでいるかを紹介しました。今回は120年ぶりと言われる民法改正が令和2年4月に施行され、お客様が一番身近に経験する「賃貸借契約」をめぐる民法改正について具体例を示しながら解説・指摘をしていきます。アナタが、生活の中で役立つ知識の一助になればと願っています。
はじめに民法改正前は、「賃貸借契約をめぐるトラブル」がどのように処理されてきたかを説明します。賃貸借において、実務上問題となり得る多くの法律関係は、改正民法前では明確な規定がなかったということです。もめごとになると(最終的には民事訴訟で決着するしかない)、これまで個々の判例の積み重ねによって紛争が解決されてきました。改正民法では、賃貸借契約をめぐる判例法理を明文化することを中心に、これまで賃貸借の実務において問題とされてきた点を改めています。
改正点を具体的に列挙します(改正民法条文つき)。①賃貸借契約の存続期間の伸長(604条)。上限20年と定められていた期間が上限50年に伸長されました②不動産賃貸借の対抗力(605条)。具体的には、賃貸物件が譲渡されたような場合、賃借人が物件の譲受人といった第三者に賃借権を主張できる(対抗できる)かという問題です。賃借権という債権を契約者以外の第三者に対抗できないのが原則ですが、改正前民法では、賃借権を登記(対抗要件を備える)することで、「その後」に「物件を取得したもの」に対して、賃借権を対抗できる例外を定めていました。ただし、従前の判例は⑴二重の賃借者や不動産を差し押さえた者等にも同様の規定が適用されるべき⑵登記前に現れた第三者との関係で対抗要件の具備の先後で決まる・・・・としていました。改正民法はは上記⑴⑵を明確にして賃貸借の登記をすることで、「物権を取得した者その他第三者」に対抗できると条文を改めました。
③賃貸人の地位の移転(新設・605条の2)。改正民法では、不動産賃貸借が対抗要件を備えていてその賃貸不動産が譲渡された場合、その賃貸人たる地位が賃借人の承諾を得ることなく、この賃貸不動産の譲受人に当然に移転することが規定されました。さらに、賃貸不動産の譲渡人と譲受人がこの不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する合意をする場合、賃貸人たる地位を譲渡人が留保することができるようになりました。この場合、譲渡人と譲受人間の賃貸借が終了すると、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位が譲渡人に移転することも定められ、賃借人の立場が保護されています。賃貸人たる地位が法律上当然に移転する場合、その移転を賃借人に対抗するためには、所有権移転登記を備えることが必要であると明記されました。
④不動産賃借人による妨害排除請求権(新設・605条の4)。少し難しいので、詳細は割愛。
⑤賃借物の一部又は全部が使用収益不可能な場合(611条・616条の2)。④と同様に、ややこしいので割愛します。
⑥適法な転貸借がなされた場合の賃貸人と転借人の法律関係(613条)。改正前民法で規定されていた転貸借はその内容が不明確であったため、改正民法により適法な転貸借がなされた場合の法律関係が整理されました。適法な転貸借による転借人は、賃貸人に対する賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負うことが明記されました。適法な転貸借が行われた場合、賃貸人と賃借人の賃貸借契約の合意解除を転借人に対抗できないことが規定され、転借人の保護が図られています。ただし、賃貸人と賃借人の合意解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行を理由とする解除権を有している場合、解除を転借人に対抗することができるとするのが判例の立場です。合意解除とは、契約当事者が合意により、契約締結をしなかったと同様の効果を生じさせることをいいます。
⑦賃貸借契約終了時における賃借人の原状回復義務の範囲(621条)。改正前民法は、使用貸借(旧法616条【同法598条の準用】)が準用されており、賃借人がどこまで原状回復する範囲なのかあいまいでした。改正民法では、賃貸借契約終了時の賃借人の原状回復の範囲につき、これまでの判例及び事例を踏まえて、特約で別の定めをしない限り、賃貸目的物を受け取った後に生じた損傷のうち、通常の使用及び収益によって生じた賃借目的物の損傷並びに賃借物の経年変化以外の損傷につき、賃借人は原状回復の義務を負うことが規定されました。ただし、賃貸目的物を受け取った後に生じた損傷が賃借人の責めに帰すことができない事由によるときは、賃借人は原状回復の義務を負いません。簡単に説明すると、賃借人が普通に生活して、部屋等によほどのキズや損壊を加えなければ、退去時に入居時と同様に清掃等をすれば問題になることはないでしょう。
しかし、問題になる事例を紹介します(改正民法前)。ペット飼育禁止の特約条項があった賃貸借契約だったのですが、賃借人の部屋の退去後に現況を確認しようと、中に入ったところ、壁や柱に猫の爪のとぎ跡がびっしりと残されていました。写真を撮り、前入居者に現況を報告して、原状回復されていないことを伝えました。もちろん、特約条項違反です。そのうえで、壁や柱の補修を行う業者の見積書・明細を提示。「敷金の範囲内で修復代金を賄うことはできない可能性があるので、家賃1か月分程度の代金がさらに必要です」と説明しました。前入居者は納得して、残代金を支払いました。今回は原状回復の義務がまったく履行されていないことと特約条項違反をしていたものです。民法で賃借人の保護が規定されていますが、賃貸物は賃貸人にとっては大きな財産であり、その価値を低減させるような行為をした賃借人はその義務を果たしていないと言えるでしょう。
⑧敷金をめぐる法律関係(新設・622条の2)。敷金をめぐる問題ですが、みなさんも賃貸借契約終了後の敷金の取扱いについて疑問や懸念を持っているのではないでしょうか?ここでひとつ指摘しておきます。賃貸借契約終了後、建物(アパート・一戸建て)の賃借物の明渡し債務と敷金返金債務は同時履行の関係にはありません。少し難しい用語・「同時履行の関係」とは、双方が債務を持っていたら、当事者の一方は、相手方が債務の履行を提供するまで、自己の債務の履行を拒めるというものです。しかし、家屋の明渡しと敷金返金の同時履行の関係を否定しています(判例)。
上記の判例等を踏まえて、改正民法では、⑴賃貸借契約が終了し、かつ、賃貸目的物の返還を受けた場合、又は、⑵賃借人が適法に賃借権を譲り渡した場合、賃貸人は賃借人から受け取った敷金から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務額を控除した残額を返還しなければならないと明記されました。加えて、賃借人が上記債務を履行しない場合、賃貸人は敷金をその債務の弁済に充当できます。しかし、賃借人から賃貸人に対して、敷金を上記債務の弁済に充てることを請求することはできません。
今回は具体的な事例を交えて「賃貸借契約をめぐる問題」を改正民法に当てはめて紹介しました。アナタが賃貸借契約を終了する際、もし分からない部分や疑問があれば、ドンドン不動産屋に質問してみましょう。その質問に答えられなかったり、誠実に対応しない不動産屋は・・・・(勉強不足かも)。まぁ、そんな業者はめったにいません。安心してください。
次回は「売主の契約不適合責任」です。??ちょっと聞きなれない言葉ですね。改正前民法では、「瑕疵担保責任」と呼ばれていました。なぜ名称が変わり、その内容について実例を交え解説します。お楽しみに!! 元ブンヤの不動産屋