· 

行政書士試験独学⑨民法総則

 行政書士試験独学9回目「民法総則」。とうとう民法に入る。憲法・行政法は公法だったが、民法は私法の最重要な一般法である。私人間の生活関係を規律し、私たちが最も身近に法を感じる。民法を制さずして、すべての法律系国家資格試験に合格はない。行政書士試験では、その傾向が顕著だ。民法は120年ぶりの大改正があり、昨年から施行された。行政書士試験においても昨年度から適用され、改正前と改正後と2年にわたり挑戦した受験生は大変な思いをしたはず。上記のような点を踏まえて、解説していこう。

 まずは民法の全体像を軽く紹介する。

 民法の条文は全部で1050条。大別すれば「財産法」と「家族法」に分かれる。体系は①総則→②―⑴財産法・⑵家族法→③―⑴財産法は物権と債権/家族法は親族と相続となる。この構造はパンデクテン方式と呼ばれる。では、L書の項目に従い、総則の学習論点と出題されそうな記述対策を見ていく。

【権利の主体】①民法の基本原則・・・通読のみ(出題されない)②私権の行使・制約原理・・・一般的原理をおさらい(出題されない)③権利能力・意思能力・行為能力・・・三つの能力の比較(具体例で覚える/例・意思無能力者の行為は無効となるが、行為当時に意思無能力だったことを証明することは困難。では、意思無能力者を保護する手段として考えられる制度は何?【答/制限行為能力者制度】/胎児の権利能力とその判例に注意/権利なき社団(判例あり)④未被成年者・・・条文素読が必須。未成年者がその行為をするには事前に法定代理人の同意を得ることが原則⇔その例外は?

 ⑤成年被後見人・被保佐人・・・要件と手続。原則と例外を押さえる⑥被補助人・相手方の保護・・・被補助人の要件と手続。相手方の催告権(20条)と詐術(判例あり)⑦失踪宣告・・・普通失踪と特別失踪の比較。要件と効果を確認する(←助言/【記述対策失踪宣言の取消し(32条)に関して、夫婦の一方が失踪宣告を受けた後、他方が再婚した場合、どうなるのか?

【権利の主体】⑧物・・・主物と従物に条文が大事。【法律行為】⑨法律行為・・・通読のみ。【意思表示】⑩意思表示・心裡留保・・・意思表示の構造を学習する。意思の不存在・瑕疵ある意思表示の違い。心裡留保は「嘘をついている」(原則有効)とし、相手方が悪意・有過失の場合は無効(←助言【語呂合わせ】〝ゼンユ、アカム〟(宅建基本書からのパクリ)。改正民法では、93条但書きは微妙に修正されている)。93条は身分行為には適用されない(例・婚姻/養子縁組)⑪通謀虚偽表示・・・本人と相手方二人が嘘をついていること。原則無効で、善意の第三者に対抗できない(94条)。ここで問題【記述問題】となるのは、第三者の定義・範囲・その判例のすべて。また94条2項につき類推適用⑫錯誤・・・95条は大幅に改正。具体的には「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」である場合と明記した。要件は二つ。⑴要素の錯誤の定義は記述対策必須(判例)⑵表意者に重過失があっても、どんな場合(95条3項各号)なら表意者自身の意思表示を取り消せるのか?動機の錯誤(判例)/主張権者【記述対策】原則と例外(判例あり)⑬詐欺と強迫・無効と取消し・・・詐欺と強迫とは大幅に修正された(1項は変更なし)。2項→相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消せることができる(⇔改正前は、事実を知っていたのみ)。3項→前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意無過失の第三者に対抗することができない(⇔改正前は善意のみ)/無効と取消しの相違をしっかりと把握する。追認に関する条文を押さえる。

【代理】⑭代理・・・最重要&頻出分野。毎年出題されると判断してよい。意義と要件、効果、自己契約・双方代理の禁止、使者との違い⑮代理権・・・復代理人の選任につき代理人の責任/代理権の消滅事由(→語呂合わせ〝ほしは半分、だしは後で〟と覚える【宅建基本書から引用】/本人死亡→法定代理における破産手続き開始決定と後見開始の審判を受けたことで消滅しない/代理人死亡→すべて消滅する)⑯無権代理・・・択一・記述ともに重要。要点は無権代理行為がなされた後、相手方がどんな手段を取ることができるか?無権代理人自身はどんな要件の下で、どんな責任を負わなければならないのか?無権代理人の責任(117条)の条文は改正されているので、しっかり条文素読を繰り返す(⇔改正前を問われるかも?)⑰無権代理と相続・・・⑴無権代理人が本人を相続した場合に本人が無権代理人を相続した場合(重要判例が目白押し/7判例/記述対策も忘れずに)⑱表見代理・・・表見代理が成立する基本的なパターンは3種類。109条2項は新設(要注意)。110条は前条をたどるので修正なし。112条1項2項ともに改正。ここでも語呂合わせで対応する(宅建基本書からのパクリで覚え方をオリジナル化)。キャバ嬢を落とす鉄則。順番に〝ネバ―・オーバー・アフター〟(ネバーはあきらめない・オーバーは男として大きく見せる・アフターはこれがなくては・・・)。記述対策では、判例「夫婦の日常家事に関する代理権の類推適用」(この判例は761条の【日常の家事に関する債務の連帯責任】でも出てくる)*この判例は、今年の記述の目玉!!と予想⑲条件・期限・期間・・・通読のみ。

【時効】⑳時効・・・民法総則では最重要分野。時効の一般的要件と確実に記憶する。時効の援用とは何か?時効の援用権者の肯定・否定の判例の学習。時効の効果・時効利益の放棄の取得者は?その資格と要件を把握する㉑取得時効・・・要件のみ覚える(*不動産賃借権は時効取得を認めている/重要判例【記述対策】)㉒消滅時効・・・消滅時効は改正166条1項2項に対応して「10年間」から「20年間」に修正/消滅時効の起算点と履行遅滞の時期との比較/改正民法では、時効の中断という概念はなくなった(時効の更新に改められた)/旧法147条は改正147条、148条に修正された。

 以上が総則の大まかな学習論点である。勉強方法は前述してきた通り。基本書を3回通読する。過去問を解く。間違えた肢があれば、条文素読or判例確認、過去問の出題履歴を基本書⇔過去問⇔判例六法に記載する。つまり、何度も言うように情報の統一化。書込み・肉付け作業は後から行うようにする(具体的には過去問を5回以上繰り返した後かなぁ)。

 さて、独学において基本書⇔過去問⇔判例六法を繰り返しても??と思われる問題や論点が出てくるはず。そんなときの専門書(or民法の基本を教えてくれる書籍)でお勧めは?と問われると困る。困る理由は二つ。一つは大幅な改正が行われたこと。もう一つは専門書は学習習熟度により受け止め方に温度差が生じるからである。

 民法改正前という条件で、あくまでも参考程度に参照をお願いする。私は2年目に通称ダットサンと呼ばれる我妻栄先生の古典的名著「民法①・②・③」をネットで購入。賛否両論あると思うが、私は民法の大家である我妻先生の本を読んでみて、〝民法って、奥が深くて条文それぞれにに多角的な視点があるのだなぁ〟と感心した記憶がある。また分かりやすさで言えば、我妻先生の「民法案内」シリーズも良書(1~9)。1巻だけでも買う価値あり。アナタの民法観念が変わる。

 次に民法入門書では、川井健氏の「民法入門」(有斐閣)を薦める。通読の記録を見ると、10回。大分、お世話になっている。その理由は分かりやすさと平易な文章。横断的に民法の知識が備わる。欠点をあえて指摘するなら、事例を踏まえた解説がほとんどないこと。残念。イメージが湧かず、あっさりとしすぎる。

 専門書ではないが(私には専門書レベル)、郷原豊茂著・公務員試験速攻ゼミシリーズ「民法①・②まるごと講義生中継」(ТAC出版)は、イラストを交えたり語呂合わせも否定しない柔軟な作り方をしている。加えて、判例・通説の解説も的を射ている。私にとって、困ったときの救急車のような存在。学習後半は滅多に開くことはなかったが、初学者の前半学習の段階で繰り返し通読すると、理解がグッと深まる。初学者には本当におススメする。注意したいのは、改正で内容が刷新されているか?それは自分で調べて🥺。

 最後の砦にしたのが、司法試験用完全整理択一六法「民法」(LEC)。4年目に購入。基本書→過去問→判例六法→入門書→専門書→判例集とたどっても見つからない。で、同本が登場する。安心感は他の書籍とは比べ物にならない。しかし、分からないといって最初からこの本を開かない。理由は、自分で考え理解することを妨げる可能性があるからである。

 ダットサン、入門書、公務員シリーズ、司法試験用六法と紹介したが、これらに過去問履歴は絶対に記載してはいけない。これらに記入するとしたら、条文・判例六法(頁・〇)・説明・解説のみ(多く書込みをしない/脳の情報が混乱するだけ)。前述しているように情報の統一化は、基本書⇔過去問⇔判例六法だけにする。判例集は辰巳法律研究所「判例まんが本⑤民法の裁判100」がおもしろい。

コマまんがで論点を整理して紹介されており、事例に入りやすい。

 紹介した書籍以外にも、さまざまな専門書等に手を出した私が到達した結論。「入門書をしっかり読み込んで、ある程度民法はこんな法律と理解した上で、自分に合う専門書を一冊選ぶ」→「コレと決めたら、浮気をしない」→「分からないときの保険をもつ(私の場合、司法試験用六法)」(独学者は??となると、だれを何を頼ればいいのか不安に陥る)。結論を当てはめると、入門書は「ダットサン・川井健氏の民法入門」、専門書は「公務員シリーズ」、最後の保険は「司法試験用六法」ということになる。この4冊を使いまわして、理解の習熟度を高めた。

 その他では、青木雄二氏の漫画「ナニワ金融道」、書籍「カネと非情の法律講座」は読むべきである。この二冊は、いかに法律が社会的弱者にとって非情であり、カネが人を狂わせ縛りつけ、家族を追い詰めた挙げ句人生の悲哀と浮き沈みを乾いた?ときには湿ったタッチでその縮図を表現するのである。字だけの勉強だけでなく、人間ドラマをいかに法律に反映させるか?そんな視点も行政書士試験の勉強には必要。もちろん、試験合格後の行政書士業務の実務にも通底する。

 次回は「物権」です。物権は物に対する直接的・排他的支配権を指します。難しい表現なので、もう少しくだけた言い回しで解説する予定です。学習ポイントと論点を具体的に紹介します。           元ブンヤの行政書士