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契約不適合責任とは・・・

 役に立つ不動産屋も5回目を迎えました。今回は「契約不適合責任」です。あまり耳にしない言葉ですね。それもそのはず。民法改正前までは「瑕疵担保責任」と呼ばれていました。「瑕疵担保責任」とは、売買の目的物(例・中古売家)に買主の気づかない欠陥(隠れた瑕疵)があった場合、売主が負う責任を指します。では、なぜ「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」へと改正され施行されることになったのでしょうか?以上のようなことを踏まえて、事例を交えながら解説していきます。これから中古物件を購入しようと考えている方などは必見です。

 ブログを読んでいただいている方から「少し内容と表現が難しいので、もっと分かりやすく法律を紹介してほしい」と助言をもらいました。独りよがりになっていたのかもしれません。反省。ご指摘の通り、分かりやすい内容と表現を心がけます。

 動産・不動産の売買において、買主が目的物の引渡しを受けてから、それが契約時に思っていたものと違っていることに気づいたり、数量が足りなかったり、他人物だったり、別物だったり、キズがあったり、性質が異なっていたりするケースがあります。具体的には、地区規制や接道条件等で購入した土地に建物を建てられない。住宅を建てたら地盤沈下する。購入した中古物件の根太(ねだ)が腐食していた。屋根がひどく傷んでいて雨漏りがする。等々etc.このように売買契約時には分からなかった隠れた瑕疵が原因で、売主VS買主でトラブルに発展するというケースが後を絶ちません。不動産取引をめぐるトラブルの大部分を占めています。

 改正前民法では、隠れた瑕疵に関する売主の買主に対する担保責任について、買主の救済手段は契約解除損害賠償の二つを規定していました(旧法566条・570条)。瑕疵の程度が高く契約の目的を達成できない時は契約解除ができ、それほどでもない時は損害賠償と分けられていました。しかし、実際の取引では、売主が数量の不足分を補い、瑕疵を修理し、修理できない時は完全なものに取り替えるという解決がみられてきました。一方、買主にはこのような実際的な方法を売主に対して法的に請求する権利が認められていませんでした。

 これに加えて、経済社会の発展で動産はもちろん、不動産の場合でも大規模な造成宅地や建売住宅の場合において、販売した物件に取り換える事例も出てくるなど、物の量産化・規格化の傾向が強まり、個々の物の個性に着目した取引と量産品の取引を特別扱いすることが合理的ではないと考えられるようになりました。

 改正民法では、こうした実情と合わなくなっている担保責任の規定を抜本的に見直し、契約の趣旨と社会通念を尊重した内容に改められました。改正の要点は、①担保責任を債務不履行の一種として、改正民法412条以下に定める債務不履行の一般原則の適用があることを明確したこと、②「瑕疵」→「契約不適合責任」への用語変更、③買主に追完請求権、代金減額請求権を認めたことの3点です。

 ①、②はそのままです。③について、ひとつずつ見ていきましょう。

 ⑴追完請求権(改正民法562条)

→目的物が種類、品質又は数量に関して契約内容に適合しないものであるとき、買主が目的物の補修、代替物の引渡し又は不足分の引渡しを求める権利です。契約をそのまま維持しつつ、その内容を完全なものにするのが、原則的な手段と言えます。なお、契約に適合しない状態が生じた責任が買主側にある場合、この権利もその他の買主の権利も行使できません。また履行の追完にあたり、売主の負担を考慮して、買主に不相当な負担を課すものでないときは、売主は買主の請求と異なる方法で追完することができると定められました。

 ⑵代金減額請求権(改正民法563条)

→買主から相当な期間を定めて売主に対し追完を催告し、その期間内に追完がないときは不適合の程度に応じて代金減額を請求できる権利です。契約内容の一部を変更するので、二次的な救済手段という位置づけになります。もっとも、追完が元々できない場合や売主が追完を拒絶する意思を明確にしている場合等無意味な催告は不要です。

 ⑶契約解除権(改正民法564条、541条、542条)

→債務不履行がある場合の一般原則に従った契約解除権の行使です。

 ⑷損害賠償請求権(改正民法564条、415条)

→債務不履行がある場合の一般原則によります。追完請求、代金減額又は契約解除と併せて、あるいは、それらが認められない場合でも、要件を満たせば損害賠償請求が可能です。改正民法では、一般の債務不履行と同様に解されます。損害賠償請求には売主の帰責事由が必要となり、その賠償の範囲は履行利益迄及ぶようになりました。

 ⑸権利行使の期間制限(改正民法566条)

→物の種類又は品質に関する契約内容の不適合を理由とする前述の各権利の行使については、不適合を知った時から1年以内にその旨を通知する必要があります。これに対して、物の数量又は権利に関する契約内容の不適合については、この期間制限の適用はなく、通常の消滅時効の定め(5年又は10年)が原則的に適用されます。

 上記を踏まえて、事例を紹介します。

【事例】

 先日、私は築15年の中古住宅を売りました。しかし、その1年後、買主Aさんから連絡があり、その住宅の床下や柱の写真を見せながら、買った中古住宅の床下や柱の一部がシロアリにだいぶやられているので、責任を取ってほしいと苦情を言われています。買主からどのような法的責任を追及されますか?

【法的考察と回答】

 ①改正民法のみで考えます。売主は一般的に種類、品質及び数量に関して売買契約の内容に適合した目的物を引き渡す債務を負うことを前提として、引き渡された目的物が契約に内容に適合しない場合には債務不履行にあたるので、【事例】においても、一般的な債務不履行の場合と同じ規律が適用されます。【事例】では、売買目的物である中古住宅が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合」(改正民法562条1項)しているかが検討され、適合しない場合は売主が債務不履行責任を負います。

 契約不適合責任の存否を検討するためには、「契約の内容」とは何か?が問題となります。ここでの「契約の内容」とは、合意内容や契約書の記載内容だけでなく、契約の性質(有償か無償かを含む)、当事者が契約した目的、契約締結に至るまでの経緯を含めて一切の事情に基づき、取引通念を考慮して判断されることになります。

 【事例】の場合、中古物件とはいえ取引通念に照らせば、住居として使用するために適した品質、性質を備えていることが【事例】の売買契約の内容に適合することになります。そのため、シロアリ被害のある本件建物を売ったことは、居住用の住宅の売買という契約の内容に適合しないという評価になり、債務不履行責任を負うことになります。

 ②売主(私)に対する債務不履行責任の追及態様として、⑴追完請求、⑵代金減額請求、⑶契約解除、⑷損害賠償請求が挙げられます。

⑴追完請求・・・買主は売主に対して、シロアリ駆除やシロアリ被害を受けた箇所の補修を請求することが考えられます(改正民法562条1項)。

⑵代金減額請求・・・買主が売主に追完の催促をしたにもかかわらず、その期間内に追完がなされないときは、シロアリ被害の程度に応じて代金減額を請求することができます(改正民法563条1項)。

⑶契約解除・・・債務不履行責任の一般規律に従い(改正民法564条、541条、542条)、追完の催告をしたにもかかわらず履行をしない場合(ただし、その不適合の程度が軽微な場合は除く)や、催告をしても契約した目的を達するに足りるする見込みがないこと明確なとき等は、催告を要せず解除することができます。

⑷損害賠償責任・・・債務不履行責任の一般規律に従い(改正民法564条、415条)、シロアリ駆除費用等を損害賠償請求をすることができます。

⑸権利行使の期間、方法(改正民法566条関連)

→改正前民法では、買主として、シロアリ被害を知ってから1年以内にシロアリ被害の箇所や程度を特定し、補修費の見積もりを取るなどして具体的な請求をすることが求められていました。この請求自体を1年以内にするというのは、買主にとって酷であるとの批判があり、改正民法に至るのです。改正民法では、買主はシロアリ被害の存在を知ってから1年以内に、シロアリ被害の場所や程度を明らかにして、不適合の内容を把握することが可能な程度に不適合の種類・範囲を売主に告げて損害賠償請求する旨を表明すれば足り、損害賠償額の根拠まで算定する必要はありませんつまり、制限がやや緩やかになったと言えます

 今回は「契約不適合責任」でした。次回は「保証」です。よく「連帯保証人にだけはなるな」と周囲から言われることがありますね。それも含めて「保証とは何か?」と全体的なことを解説しつつ、事例を踏まえて分かりやすく紹介したいと思います。            元ブンヤの不動産屋