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保証

 役に立つ不動産屋編も6回目を迎えました。令和3年6月からブログを開設。テーマごとにタイトルをつけ、【法律の有用な情報提供・独学オリジナル勉強法・毒舌をまき散らす】スタイルで、原稿を執筆してきました。最近(9月に入ってから)、やたら出会う人出会う人に「ブログ読んでますよ」「あのブログを書いている人ですよね」と言われる機会が増えました。改めて〝ネット社会恐るべし〟とキモに命じ、〝こんな小さな不動産屋のブログもチェックされているとは〟と自戒しながらキーボードを叩こうと思います。

 さて今回のテーマは「保証」。そもそも保証とは何ですか?簡単に言えば、借金をした者(主債務者)に代わって、借金を肩代わりする責任を契約として結ぶ行為です。ここでよく勘違いされるところですが、保証債務契約を結ぶのはあくまでも債権者(主債務者ではない!!)と保証人です。主債務者(借金をした人)と保証人との契約ではありません。主債務者と保証人との関係は委託です(主債務者〝保証人になってください〟→保証人〝分かりました〟)。

 今回の民法改正における保証制度の改正事項は、大きく①保証の基本的な内容に関するもの②保証人の保護に関するものとに分かれます。①はこれまでの実務や判例を明文化したものです。重要なのは②です。②はこれまでと大きく変更されている点があり、今後の不動産取引の実務に影響を及ぼします。

 主だった改正を紹介します。

 ☐情報提供義務の新設(改正民法458条の2)

 主債務者から委託を受けた保証人からの請求があったとき、債権者は主債務や元本や利息等について、①主債務者に不履行があるか②債務の残高及びそのうち弁済期が到来しているものの額、という主債務の履行状況に関する情報を提供しなければならない。端的に言うと、〝ちょっと~、主債務者は借金ちゃんと返しているぅ?〟〝その返済具合は?〟と保証人から聴かれたら、債権者には情報提供する義務が生じます。

 ☐主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務(改正民法458条の3)

 主債務者が期限の利益(注・memo❶)を逸した場合において、その期限の利益を喪失したとき、債権者は保証人に対して、期限の利益の喪失を知ったときから2カ月以内にその旨を通知しなければならないという規定が加わりました。債権者がこの通知をしなかったときは、債権者は保証人に対して期限の利益を喪失したときから通知を現に行うまでに生じた遅延損害金を請求できません。なお、この規定により債権者から通知を受けることのできる保証人は、個人保証人に限られます。

 ☐個人の根保証に関する保護(465条の2第2項)

 個人による貸金等の債務の根保証(注・memo❷/例は継続的な事業ローン等)については、平成16年の民法改正で極度額の定めや保証期間の定め、保証の終了事由等が定められました。しかし、賃貸借や継続的売買契約取引の根保証といった貸金等債務以外の根保証についても、予想外の多額の保証債務の履行を求められるケースが多く、個人根保証についても規制を行うべき必要性が指摘されていました。

 上記のような問題点を踏まえ今回の民法改正では、個人保証人の保護を拡充するため貸金等債務以外の個人根保証に関して、極度額の定めを保証の要件としました。書面で極度額を定めなければ契約が無効になります。具体的には、アパートを借りたいときに記入する賃貸借契約書に連帯保証人欄があります。その下欄に極度額の記入欄があり、そこの額を記入しなければ契約が無効になる可能性があるということです。

 根保証の極度額の定めについて、事例を交えながら紹介します。

【事例】

 不動産屋のAは大家であるBさんからこんな相談を受けました。Bさんが所有するアパートに新しい借主が入居することになりました。賃貸借契約書を結ぶ際、保証人につけてもらおうと考えています。契約書には、「賃貸借契約に基づき賃借人が賃貸人に対して負担する賃料支払債務等の一切の債務につき、連帯して保証する」との文言を入れ、保証人の署名押印をもらえれば大丈夫でしょうか?

 ⑴借主の親が保証人になる場合

 ⑵保証会社が保証人になる場合

(*委託を受けたAの賃貸借契約書には相談事項は記載済との想定で、⑴・⑵のケースを解説)

【回答と解説】

 今回の極度額の定めが規定された背景には、何があったかを説明します。賃借人が相当長期にわたり賃料を滞納した事案や賃借人が自殺し、損害賠償責任が生じた事案等、親や親せきといった個人保証人に予想を超える過大な履行の責任を求められるケースが多く、保証人保護を拡大すべきである背景がありました。

 結果、賃貸借契約の根保証を求める以上、⑴借主の親といった個人が保証人になる場合には、契約書に保証人が負うことになる保証債務の極度額を定めなければならない⑵保証会社といった法人が保証人になる場合、⑴の規定は適用されません。従前通り、極度額の定めをしなくても保証契約が無効になることはありません。

 回答は以上ですが、極度額・元本確定期日に関する定めについては、いくつかの注意点があります。⑴の場合、極度額は保証契約締結時に確定的な金額を定める必要があります。つまり、契約書の記載から極度額がいくらかであるかを分かりやすく定めなければなりません。例えば、「極度額は賃料の〇カ月分」と記載した場合、問題が生じます。まず書面上賃料がいくらかが明確でないこと(賃料は将来改定される可能性がある)、またどの時点のいくらの賃料かを明確にできないことが挙げられます。このような場合、極度額の定めがないとして無効になる可能性が残ります。

 では、具体的に極度額をいくらに設定すべきなのでしょうか?指標を紹介します。国交省が極度額の設定に資するように公表した「極度額に関する参考資料」では、過去の判決で連帯保証人が負担するよう命じられた額等を調査しています。連帯保証人の負担額の平均値は賃料13・2カ月と公表されています。ちなみに私は、平均値を軸にして極度額をお客様に提示しています。

 改正民法では、個人根保証契約の主たる債務の元本確定事由を規定しています(465条の4第1項)。主債務者又は保証人が死亡したとき、元本が確定することに注意が必要です。つまり、賃借人又は保証人が死亡すると、保証債務の範囲・額が確定し、それ以降に発生した債務は保証債務の対象に入りません。例えば、保証人が死亡して、その後賃借人が賃料を滞納しても、保証人死亡時点で保証債務の範囲・額は確定するので、その後に発生した賃料債務については、保証の範囲ではありません。ということは、保証人の相続人にその履行を求めることはできません。死亡後に発生する債務の保証を求める場合、新たな保証人と保証契約を結ぶ必要に迫られます。

 *注・・・memo❶「期限の利益とは、期限の到来までは債務の履行をしなくてもよいという利益」、memo❷「根保証とは、一定の範囲に属する将来発生する不特定の債務の保証のこと

 さて、今回は保証でした。どんな感想を持ちましたか?極度額の定めは賃貸借契約上の大きな改正でした。契約において保証人になるということは、大きな意味を持ちます。ご理解いただけましたか?保証とは一言では片づけられない分野ですが、極度額の定め(個人保証人のみ)をしなければ、もし!!というときに契約が無効になるのです。

 私たち宅建業者は法令順守を実践する義務があり、私は事前に書面で借主予定者に説明して理解を得るようにしています。普通に市民生活を送っている借主予定者が、民法改正で「極度額の定め」が必要な~んて知るはずもありません。でも、法律改正を知ってもらうことで、予防法務の側面を補える結果にもなります。

 ブログ読者のみなさんが、過ごしやすい日常生活を送れるよう今後も法律改正の注意点や疑問に思われていることを記事にしていきます。最近、「ホームページをみて、問い合わせしました」との連絡が多くなり、その都度「ブログも読んでみてください」とお願いしています。

 次回は「賃貸借における修繕義務と完成猶予事由の特則」です。よく賃借人と賃貸人がトラブルになるケースは、修繕費用をどちらがもつべき事案なのかですね。法律に基づきつつ事例を交えながらポイントを紹介します。

                        元ブンヤの不動産屋