2019年秋、日本中が熱くなった。〝オフロードパス〟〝ジャッカル〟〝ワンチーム〟の言葉が日常に飛び交い、オッサンラガーマン(ラグビー感染歴30年以上/選手歴約10年/観戦歴20年以上)は何となく居心地が悪かった。( ´艸`) ワンチームはスローガンなので仕方がないにしても、オフロードパス・ジャッカルはラグビー経験者なら知っていて当然。その難易度は推して図るべし。
開催国での初のベスト8の快挙には、体の底から熱いものがこみ上げてきた。その興奮は冷め、あれほど「姫野のジャッカルがさぁ」「中村のオフロードパスは角度がなかった」「松島のランニングは凄い」等と語っていたにわかファンは、どこへ行ったのか?にわかファンのみなさん、松島選手は現在、どこのチームでプレーしてますか?次回ラグビーW杯は、どの国で開催されますか?ラグビー通か経験者もしくはにわかファンを通り越して本当のファンになった人は知っている。答えは二つともフランスである。
今年6月、日本代表は全英協会の招待で初めて4英国(イングランド・ウエールズ・アイルランド・スコットランド)協会合同チーム(ブリティッシュ・ライオンズ)と対戦した。これは前回W杯ベスト8の実績が生んだ結果である。基本的にブリティッシュ・ライオンズは4年に1回、NZや南ア等の南半球の強豪国に遠征する特別な合同チーム。ジャージーは赤(ウエールズ)、パンツは白(イングランド)、ソックスは紺と緑(スコットランド・アイルランド)。選ばれただけで栄誉で、テストマッチに出場すれば国同士の試合と同様にキャップが与えられる。
やや小難しい話を。前回W杯で対戦したスコットランド。初めて勝ったと信じている人が多いと思うが、勝つのは2回目である。えぇっ、テレビ解説者は初めて勝ったと解説していたのに・・・、「アンタ、嘘ついている」と突っ込まれてそう。なぜ、そんなにややこしいかというと、1989年、日本に遠征してきたスコットランドは日本代表と対戦。結果、日本が勝った。しかし、スコットランドはこの試合を正式なテストマッチと認めていない。フルメンバーではなく、控え中心(将来有望な選手)で日本に遠征してきた(主力は全英ライオンズに選出)。つまり、「オイ、日本には物見遊山で遠征に行く。ラグビー二流国の日本なんてさぁ。俺たちのレベルでは、日本代表でも勝てねえよ」。実際は本気で戦略を練り、トレーニングしてきた日本代表が若手中心のスコットランドを見事撃破した。だから、W杯で初めて勝ったというのはスコットランドが初めてフルテストマッチとして認め、初めて日本に負けたことを認めたということ。理解して頂けましたか?
前置きが長くなったが、本題に入る。ラグビー選手個人における2・5流の話を始めよう。1流は高校なら【花園ベスト8以上】、大学なら【全国選手権ベスト8】レベル、社会人なら【トップリーグ1部】。2流は?3流は?カテゴライズすると、レベルと全国分布は比例する。2・5流とは、2流と3流の間でさまよう1流の原石を指す。
大学・社会人で2・5流なら選手としては致命的。トップカテゴリに上がることはほぼない。しかし、高校生で2・5流なら2流もしくは1流になれる可能性を秘める。前回W杯で活躍した中村亮土選手は鹿児島実高からラグビーを始め、帝京大→サントリーに進んで日本代表に選ばれた。中学時代の部活はサッカー。外国出身を除いた日本代表で幼いころからラグビーを始めた選手は意外に少ない。前々回W杯で活躍したロック・大野均選手は、高校までは野球選手で大学からラグビーを始めた。しかも、東北地方の大学だった。
何が言いたいかというと、地方にも将来の日本代表候補となり得る高校生の原石が確実に全国にいるということ。しかし、現在の日本ラグビー全体を取り巻く現状は私が選手だったころに比べると、寂しい・悲しい限り。幼年のカテゴリでは競技人口が増えたという事実はあるものの、高校レベルでは合同チームによる花園予選参加が如実で、鹿児島県も単独チームで予選に出場するのは強豪校・伝統校ばかりだ。兎にも角にも、15人以上部員が集まらない。部員が15人いたとしても、本格的な練習をするには、倍の人数(約30人)は必要となる。
あの熱かったW杯の興奮とは別に、将来のラグビー日本代表の姿は見えてこない。少子化に伴う競技人口の減少、多様化するスポーツ、波紋のように社会に浸透するスポーツコマーシャリズムの進行、アマとプロとの線引きの曖昧さ、指導者不足等々、挙げたらきりがない。野球やサッカーはアマとプロとの線引きが分かりやすい。しかし、ラグビーのアマとプロとの線引きは??これを明確に解説できる人は、限られるだろう。野球の場合、プロは12球団と独立リーグ。興行・職業として成立する。日本におけるプロ競技・ラグビーの立ち位置はどこ?長い間、ラグビーはアマチュアを守り続け、最近、プロ化(完全ではない)へ移行した。
にわかファンの皆さん、前述した中村選手はアマとプロのうち、どっちだと思いますか?答えはアマ。平日、中村選手は営業に出て会社から給料をもらう。もし遠征に選ばれたら会社からは給料は出ないことになる。でも、そこは日本協会が身分の保証をしてくれる。応分のサラリーが保全される仕組み。このような日本のプロ化の実態を知っている人は、既ににわかファンではなくラグビーを心底理解していて、日本代表を愛しているにほかならない。日本でもっとラグビーというスポーツが広がってほしいと願っているのである。
2・5流の話を続ける。私は高校からラグビーを始めた。中学時代、野球をしていたが、あの軍隊のような厳しい上下関係や不条理・理不尽と呼べる上級生からの陰湿なしごき・いじめに加え、教師に取り入る部員の卑屈な態度、それを見て見ぬふりをし続ける同級生のよそよそしさ等々・・・。「なんだ、ここ(野球部)は旧日本軍か?日本は本当に民主主義国なのか?人権はどうしたら守られるのか?」と思う日々。ヘタクソだったこともあり(3年になっても補欠背番号二けた)、野球への情熱は完全に失せた。別にラグビーへの興味はなかった。しかし、15人が連携して、仲間を信じて走り続けて、トライへの過程を楽しむことが、醍醐味だと理解でき続けることができた。
高校の部活動は欧米のクラブとは全く構造自体が違う。2・5流と高校スポーツ×社会とのかかわりの視点で論理を展開していく。その弊害を指摘する。勝利至上主義(特に人気の高い野球・サッカー/大人の責任と事情による)の跋扈(ばっこ)・指導者の独善・高慢な指導法(非科学的・精神論・自分追体験型指導)・体罰容認体質/上下関係の絶対主義の空気感(指導者の感情論/ОB会等の存在)・コーチング理論の限界と停滞(コーチングは進化する)もしくは昇華・社会との隔絶(生徒を取り巻く内外の壁/具体的には保護者の現場への介入【強豪校であればあるほどその密度と濃度は濃い】/社会とのかかわり低減【ボランティア作業参加等】)・プロとアマとの境界線をあいまいにする姿勢(システムやスキル)等々。そのスポーツそれぞれの立ち位置は、自ずと異なるだろう。例えば、高校野球とセパタクローでは、競技人口・その裾野・指導者数・指導方法や理論の幅に大きな差異が生じることは明白だ。
2・5流がさまざまな意味で上のカテゴリに救われないことを数字で客観的にみてみよう。今年の高校野球全国予選の参加校は約3,600校。ベンチ入り平均を12人と仮定したとき、予選に参加した高校球児は、約43,200人。昨年のプロ野球とドラフト(育成含む)指名を受けた高校生は、53人だった。全国予選に参加した現役高校生がプロ野球に入る確率は、ナント約0・001%である。もちろん、社会人・独立リーグ・大学に進む高校生はもっと増える。しかし、上のカテゴリに進んだとしても必ずプロ野球のドラフトで指名されるわけでもない。成長もあれば、けがもある。
プロ野球を含めた上のカテゴリにいける高校生は、大雑把にみて約1%(500人と見積)。残りの99%は、本格的に野球を辞めるか?クラブ・草野球に興じるか?又は断絶するか?選択を迫られる。高校野球選手は、幼いころから野球しか経験したことがない高校生が大半だ。この中に、1流になる原石の2・5流はいないのか?現在のニッポン野球の社会的なシステムは、この2・5流を救えるほど整っていない。もったいないの一言だ。積もり積もった有形無形の財産が、あの野球独特の体育会系の空気感を生みだしたのか?この99%が本格的なコーチ理論を学ぶことなく、現場の監督となり高校野球を指導している。日本で国民的スポーツと言えば、野球のはず。その野球でさえ選手と指導者の2・5流を救える環境にはない。
例を挙げよう。プロ野球ソフトバンク・千賀滉大投手が育成出身ということはみんな知っている。では、全国的に当時無名だった千賀投手が育成ドラフトにかかったのか?そこには私が指摘する2・5流をすくい上げる、野球(他のスポーツも同じ)を愛する確かな視点と人脈のつながりが、パ・リーグを代表する投手を誕生させる要因が潜む。高校生の千賀投手は愛知県の無名公立高校のエース。愛知県予選では、チームは3回戦負け程度の高校。球は速い。しかし、ノーコン。プロ野球のスカウトの目にとまることもなく、リストアップもなかったはず。その千賀投手に熱い視線を送る人物が・・・・。地元でスポーツ用品店を営むA氏。彼がソフトバンクのスカウトに千賀投手を推薦したその人である。偶然と言えばそれまでだが、千賀投手は2・5流から1流へと駆け上がった。本人の努力もあったと思うが、一方でその裾野が一番広いはずの野球でさえ1流になれる素材を見出すのに、地方の野球人の眼力に支えられていることになる。ラグビーには、その素地さえない。
野球ですら、2・5流を救う可能性が低い中、他のスポーツが高校レベルからプロ(あるいは上のステージ)へと、その才能を見出せるものなのか?答えや解説には、相当の頁数が必要なので次回に持ち越す。ラグビーにおける2・5流を救う画期的なシステムを提案する。そして、社会の中でスポーツが果たす役割を考察しよう。スポーツを愛するすべての人に読んでほしいと切望する。
元ブンヤのラガーマン